第43回  安全保障関連法制と日米同盟

               ―ガイドライン後の日米同盟―

川上 高司 氏

拓殖大学 海外事情研究所 所長・教授(当会顧問)


1955年熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)Institute for Foreign Policy Analysis(IFPA)研究員、()世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授を経て現職。この間、ジョージタウン大学大学院(ペンタゴンプログラム)留学、RAND研究所客員研究員、参議院外交防衛委員会調査室客員調査員、神奈川県参与(基地担当)()国際間題研究所客員研究員。

 現職の他、中央大学法学部兼任講師、NPO法人外交政策センター(FPC)代表、()国際情勢研究所委員、フレッチャースクール外交政策研究所研究顧問などを兼務する。

主な所属学会は、国際政治学会、アメリカ学会、国際安全保障学会、日本政治学会、ISAIISS


概要

安倍総理の一連の安全保障の「安倍改革」は真に日米の「同盟改革」(Revolution of Alliance)であり、同時に日本の「歴史的転換」となった。今後、日本は「普通の国」となる道筋として、「今やらなければならない喫緊の課題」に踏み込んだと言えよう。

集団的自衛権行使容認を受けての日米ガイドライン改定、さらに安倍総理の米議会でのスピーチ、安全保障関連法案の国会論議を論じ、今後の日米同盟を分析する。

講演

 「オバマ政権を振り返る-日米同盟どうなる?-」

 

オバマ政権を振り返る! -オバマの課題はどれだけ実現したのか?-

【オバマ政権スタート時の課題】

1.核のない世界 - 実現したのか?   イラン、北朝鮮、ロシア

2.テロとの戦いの終焉- したのか?   アフガニスタン、イラク、シリア

3.米国経済は復活 -  したのか?  

4.米国民は豊かになった-  のか?   オバマケアー、経済格差、Fargason Effect 

5.民主党は強くなった -  のか?   キューバ、大統領選挙

  

オバマ政権で世界はこうなった!

【現時点の状況-オバマの責任!?

1.パリ同時多発テロ~IS(イスラム国)との戦争

2.ロシアの台頭             クリミア半島編入~中東介入

3.イランの台頭

4.中国の台頭              東シナ海問題~南シナ海問題

5.韓国の中国シフト

6.日本の軍事大国化?-日米同盟強化

7.世界の「溶解」-無極化の時代へ

  

本日の話

【アメリカ情勢-オバマ政権を振り返る-】

1.オバマの世界

2.台頭する中国

3.ロシアの復活

4.ISの台頭

5.シリア難民の発生

6.中東地図の塗り替え

7.世界は無秩序へ!

8.安保関連法案後の日本はどうする

9.米大統領選挙の影響


講演中の川上先生

改定ガイドライン後の日米同盟(概説)

 

Ⅰ 安保関連法案可決 

2012/12/26        第二次安倍内閣発足

2013/ 1/28         安倍所信表明演説→日米同盟強化

2/7          安保法整懇設置

8/8          小松一郎仏大使を内閣法制局長へ②

12/4        国家安全保障会議(NSC)設置

         12/6        秘密保護法制定

        12/17       中期防、防衛大綱

2014/ 4/1           防衛装備移転三原則  

    5/15           安保法整懇報告書 提出

            安倍総理記者会見

                ①限定的集団的自衛権の行使は憲法上容認される

                  ②憲法解釈変更のため、内閣法制局の意見を踏まえて

                ③与党協議を行い

                ④閣議決定し

                ⑤法案を国会へ提出する

2014/ 7/1          集団的自衛権行使容認(NSCおよび閣議決定)①

2015/ 3/18        カーター国防長官発言→「ガイドラインで日本はグローバルに米国を援助」

      3/20            (2/13)与党(自公間)での安保制度基本方針合意③

      4/27            ガイドライン改定

      4/29            安倍総理、米議会でのスピーチ

      5/14            安保関連法案、閣議決定④

      5/15            参議院、衆議院へ提出⑤

      5/19-7/16    衆議院審査 116時間30分)

      7/24-9/19    参議院審査(100時間8分)

     *9/19           安保関連法案成立

  

1.ガイドライン改訂

18年ぶり、3度目のガイドライン改定 

・集団的自衛権行使容認を受けたガイドライン

・グローバルに、平時から有事までシームレスに、米軍と一体化が可能

 2.安保関連法案のポイント

・地理的制約の撤廃

・集団的自衛権、存立危機事態

・駆けつけ警護

 3.改定ガイドライン後の意義

・岸信介元総理が理想とした「対等な同盟」 へと一歩近づく、安倍安保改革は日本の歴史的転換

・米軍「矛」、自衛隊「盾」の分業から、日米一体化へ

・地球規模で米国と「責任」と「役割」を分担し、具体的な行動、決断を迫られる局面に入った。

 4.憲法論議へと展開-6/4 衆議院憲法審査会-

・ 長谷部恭男教授(与党・早大)、小林節名誉教授(野党・慶大)、笹田栄司教授(野党・早大)

→ 安保法案を「集団的自衛権の行使は違憲である」と明言した。

・ 国会のみならず日本全土で合憲性が議論されるようになった。

・ 政府の解釈変更の根拠→ 1972年政府見解、砂川判決

 5.国会での論議

・平和安全保障整備の背景・影響

・憲法解釈の変更と法的安定性の問題等

・集団的自衛権の行使・存立危機事態対処

・他国軍隊への支援活動等

PKO法の改正

・米軍等の部隊の武器等防護

・在外邦人等の保護措置

・平時の米軍に対する物品・役務の提供拡大

・国外犯処罰規定の創設

・国家安全保障会議設置法の改正

・平和安全法制に対する国会の関与

・グレーゾーン事態(離島周辺での不法行為への対処等)

 6.政府の国会論戦の戦術

・手間暇や時間のかかる憲法改正は回避する

・国会で揚げ足をとられるような質疑を行わない

・中国を脅威だとは名指ししない 

7.国会論戦が残したもの

・戦争反対デモの余波

・母体 → シールズ、主婦、俳優、言論、共産党、社民党、民主党  + 法曹界

・今後、社会現象となるのか? → 憲法訴訟、憲法論議・反対運動の復活?参議院 選挙への影響

熱心な聴講風景

Ⅱ 安保関連法案後の展開

 1.今後の展開

・安全保障法案は20163月までに施行

・自衛隊活動は国際平和支援法関連案件について、米軍とは関連なく自衛隊単独で速やかに実施。

 → 自衛隊のPKOでの「駆けつけ警護」 任務の拡大。

(1)南スーダン 

・自衛隊、道路建設や避難民の支援実行中

・避難民支援を行うNGO活動は危険にさらされている。

・国際平和支援法で、自衛隊は「宿営地の共同防衛」および「駆けつけ警護」の任務を拡充、国連の要請で南スーダンPKO司令部への要員派遣も拡大 。

(2)東シナ海

・日米情報収集メカニズムを活用

ISRの推進 → 米軍と自衛隊の情報共有深化

・日米同盟調整メカニズム(ACM)で調整、「共同計画」として策定

(3)南シナ海

・南シナ海でのISRに自衛隊関与。

・トーマス7艦隊司令官「将来的に海上自衛隊が南シナ海での活動は理にかなっている」

・哨戒活動や潜水艦による監視活動を、米国、他国、多国籍軍と共に行なう。

(4)米軍、米軍以外の軍隊と軍事演習の機会の増加

5/12 海自護衛艦とフィリピン海軍スービック湾近くフィリピン海域で初の合同演習

6/2324 海自P-3C、南沙諸島近くの公海上でフィリピン軍と共同訓練

・将来、日米、日米豪、日米豪比による南シナ海の合同パトロール?

 2.今後のリスク

・ 自衛隊の活動が拡大 →武器使用→犠牲者 → 日本国内的に大きな波紋

・ 集団的自衛権の行使を閣議決定、が憲法違反しない根拠を国民の一部と法曹界は納得せず

 

Ⅲ 対等な同盟へ -ガイドライン後の日米同盟-                                 

1.日米安全保障成立の4つの前提条件

①日米両国に共通の軍事的脅威が存在

②日米両国でその共通の脅威に対処

③日米両国は自由主義体制を維持する

④米国は地域防衛、日本は本土防衛

・ 日本の最大の関心事はいかに「抑止力」を確保するかにあった!

・ 1、2、4は消滅、いかに同盟を存続させるか

・ 日本の防衛=自主防衛+日米安保

 2.冷戦期の「日本の抑止力」の方程式

      A   =   B    X   C

     日本の抑止力   米国「矛」   日本「盾」

B(米国「矛」)=α(米軍能力)X β(在日米軍基地機能)

        C(日本「矛」) = 自衛隊能力(リージョナル)

3.冷戦後の「日本の抑止力」の方程式

      A    =  B   X  C    X   D

   日本の抑止力   米国「矛」   日本「盾」   日米共同行動

B(米国「矛」)=α(米軍能力)X β(在日米軍基地機能)

C(日本「矛」)= リージョナル(例: 尖閣、朝鮮半島、台湾) 

D(日米共同行動)=サブ・リージョナル(例:南シナ海)+グローバル (例:シリア、アフリカ)

 4.「普通の国」へ

・「普通の国」 =国益に基づき防衛政策を立案できる国

・「対等な同盟」=独自の国家戦略を持ち、米国と対等に戦略・戦術を自らの意志で共有できる同盟

・日本は地球規模で米国と「責任」を共有し、具体的行動、決断を迫られる

 5.今後の課題-①立法上-

○集団的自衛権行使容認 → 201471

○ガイドライン改定 → 2015427

○「安保関連法案」→ 2015919日可決!

☆「憲法改正」 → もししない場合「憲法の空洞化」→ 自衛隊は軍隊である

☆日米安全保障条約改定 →極東条項

講演に熱が入る川上先生

6.今後の課題-②防衛資源の配分

(1) 日本の自衛隊の活動

・①リージョナル(東シナ海)、②サブ・リージョナル(南シナ海)、③ グローバル(中東、IS等)と分けた場合、どの地域に優先順位があるのか!?

・それぞれの地域にどれほど自衛隊の自衛隊のアセット(隊員の数、装備、経費)をどの程度投入すべきか

■リージョナル(東シナ海)- 尖閣諸島、朝鮮半島、台湾

・日本周辺の東シナ海(リージョナル)こそ我が国の死活的国益に係わる地域

  尖閣諸島、朝鮮半島、台湾問題

・自衛隊の後方支援は?

■サブ・リージョナル(南シナ海)

・南シナ海で自衛隊はどれだけ係わるか?日本の重要国益なのか?自衛隊投入は国益となるのか?

・海上自衛隊に余力はあるのか?存立事態なのか?

・中国の主張する「九段線」の内側でやれば中国軍との対立は必死

③グローバル(中東、IS)

・日本にとり中東地域はどれくらいの優先順位があるのか

・リージョナル、サブ・リージョナルと比べグローバル地域にどれほど関与? 能力、アセットは?

・ 邦人救出はやるのか、可能なのか? 次回はどう対処?在外邦人の保護・救出を可能とする我が国の能力は、法整備を経た後で、自衛隊にその任務にあたらせるのか?政策は?

(2)日本の関与は?

・ How much is enough? 

 →米国はガイドラインで日本の南シナ海への関与を期待する

 → P3C哨戒機(70)P1次期哨戒機(2,2018年度まで購入)、対潜

 →日本周辺哨戒活動、ソマリア・アデン湾海賊対処、訓練・演習、整備・修理(稼働率78割)で運用に余裕はあるか?

 →中国がADIZを設けた場合、中国軍との対峙

(3)安部政権の課題

・限られた自衛隊のアセット(ヒト、モノ、カネ)をリージョナル(東シナ海)に重点的に投入か?

・南シナ海は日本にとりVital Interestにあたるのか?

・日本が南シナ海に自衛隊を投入すれば、そのバーターとして東シナ海(尖閣、島嶼)に米軍は確実にコミットメントするのか?

・来たるべき自衛隊員のcasualityにどう対処するか?

・憲法訴訟にどう対応していくのか?

(4)日米Perception Gapをどう乗り切る?!

<米側の認識>

・ガイドライン改定および安保関連法案で、米軍の戦略に自衛隊をcountできる

・後方支援、機雷掃海、MDISR等々。したがって、作戦展開中の離脱は許さない

・米国の要請に自衛隊は「普通の国」として参加。新三要件は日本国内問題

<日本側の認識>

・グローバルに平時から戦時まで米国と一体化、米国の抑止力は確保。尖閣有事も米軍支援期待。

・後方支援は行うが、戦闘地域には行かない、自衛隊が後方支援を行っている非戦闘地域が戦闘地域となった場合には撤退する。それは米国も了承している。

*日米同盟の希薄化が起こる可能性もある

川上先生最新著作

 「無極化」時代の日米同盟 アメリカの対中宥和政策は日本の「危機の二〇年」の始まりか

(ミネルヴァ書房 2015年7月15日)

石破 茂氏(地方創生・国家戦略特別区域担当国務大臣/元防衛大臣)推薦
安全保障は感情論ではなく徹底したリアリズムで語られるべきものであり、その意味で本書の論考は非常に参考になる。

民主主義という価値観を共有する諸国のパワーが低下する一方、ロシアや中国といった権威主義国やテロや多国籍企業といった非国家主体のパワーの興隆が著しい「無極化」時代。そこでは経済・政治的安定をめぐり「大国間の協調」が生まれ大国間の紛争は回避されるが、各パワーは国益増のため軍事面での水面下のゼロ・サム・ゲームを展開する。そのなかで日米同盟は当然ながら変質を迎える。それに対してどう日本は対処するのか、国家の生き残りをかけた時代が到来する。

 [ここがポイント]
◎ オバマ政権(第一期~第二期)の安全保障政策を実証的に分析
                   
◎ 今後の日米同盟の行方を探る

川上高司研究室URL

 http://www.tkawakamidreams.net/index.html