第34回 「日朝合意と北朝鮮の動向」

平成26年12月12日(金) PORTA神楽坂 18:30~20:00

宮本 悟 氏 (みやもと さとる)

聖学院大学 基礎総合教育部 特任教授 (政治学博士) 

同志社大学法学部卒。

ソウル大学政治学科修士課程修了〔政治学修士号〕。

神戸大学法学研究科博士後期課程修了〔博士号(政治学)〕。

日本国際問題研究所研究員、

聖学院大学総合研究所准教授、

聖学院大学基礎総合教育部准教授

専攻は、比較政治学、国際政治学、政軍関係論,安全保障論,朝鮮半島研究。


日朝合意と北朝鮮の動向

日朝協議が始まり、日朝は拉致被害者の再調査や制裁の一部解除で合意した。しかし、その合意が予定通り実現させるかは、まだ不透明な部分が多い。
しかも、北朝鮮は日朝協議と共にミサイルも連射しており、日本の世論も刺激している。日朝合意はどうなっていくのか。今回それを検討していきたい。


日本政府の対朝政策

「日朝平壌宣言にのっとり、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を実現することを基本方針とする」

  • 日朝国交正常化が目的であって、北朝鮮を崩壊させることが目的ではない。

  • 拉致問題の解決は、日朝国交正常化のための施策の一つである。

  • 拉致問題が解決したとしても、核問題やミサイル問題が残されており、日朝国交正常化には困難な問題が山積みされている。

  • 「不幸な過去を清算」とは、日朝平壌宣言では経済協力のことである。

    日朝首脳会談後の日朝交渉

  • 20045月 日朝首脳会談(2回目)

  • 20048月 第1回日朝実務者協議

  • 20049月 第2回日朝実務者協議

  • 200411月 第3回日朝実務者協議 (横田氏遺骨偽物問題)

  • 200511月 日朝政府間協議

  • 200512月 日朝政府間協議

  • 20062月 第1回日朝包括並行協議

  • 20073月 日朝国交正常化のための作業部会 第1回会合

  • 20079月 日朝国交正常化のための作業部会 第2回会合

    福田政権における日朝交渉

  • 20086月 日朝実務者協議

    北朝鮮側は、「拉致問題は解決済み」との従来の立場を変更して、拉致問題の解決に向けた具体的行動を今後とるための再調査を実施することを約束

  • 20088月 日朝実務者協議

    北朝鮮が行う調査は、拉致問題の解決に向けた具体的行動をとるため、すなわち生存者を発見し帰国させるための、拉致被害者に関する全面的な調査となること。

  • 20089月の福田首相の辞任表明によって、北朝鮮は調査の延期を宣言。

    野田政権における日朝交渉

  • 20128月 日朝政府間協議 課長級予備協議

  • 201211月 日朝政府間協議

    • 日朝平壌宣言に則って日朝関係の前進を図るべく、幅広い意見交換を行った。

    • 日本側は、日本人遺骨、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、「よど号」事件をはじめとする日本人にかかる諸問題を提起し、北朝鮮側はこれらの問題につき協力していくこととした。

      安倍政権における日朝交渉

  • 2014330日 日朝政府間協議

    日本側は、日本人遺骨、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、「よど号」事件をはじめとする日本人にかかる諸問題をこれまでの協議に引き続き提起し、北朝鮮側との間で更なる議論を行った。

  • 2014526日 日朝政府間協議

    北朝鮮側は、過去北朝鮮側が拉致問題に関して傾けてきた努力を日本側が認めたことを評価し、従来の立場はあるものの、全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した。日本側は経済制裁を一部解除することになった。

  • 201471日 日朝政府間協議

    北朝鮮側から、拉致被害者を含む全ての日本人に関する問題の包括的かつ全面的な調査を行うための特別調査委員会の組織、構成、責任者等に関する説明があり、これを受け、日本側から、この委員会に、全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限が適切に付与されているかといった観点から、集中的に質疑等を行った。

    制裁措置の一部解除(74日閣議決定)

  • 人的往来の規制措置の解除、北朝鮮籍者の入国の原則禁止措置、在日の北朝鮮当局職員による北朝鮮を渡航先とした再入国の原則禁止措置、日本人に対する北朝鮮への渡航自粛要請措置等を解除。北朝鮮籍者の入国は、入国申請があった場合、個別具体的に適切に審査(国連安保理決議指定個人の入国は、引き続き認めない。) 

  • 支払報告及び支払手段等の携帯輸出届出の下限金額の引下げ措置の解除、北朝鮮に住所若しくは居所を有する自然人又は主たる事務所を有する法人その他の団体に対する支払について、報告を要する金額(下限額)を現行の300万円 超から3000万円超に戻す。 北朝鮮を仕向地とする支払手段等の携帯輸出について、届出を要する金額(下限額)を現行の10万円超から100万円超に戻す。 

  • 人道目的の北朝鮮籍船舶の入港、人道物資輸送のために北朝鮮籍船舶が我が国に入港する場合を特定船舶入港禁 止特別措置法第6条1項に規定する入港禁止の例外となる「特別の事情」に該当 する場合であると閣議決定。 入港する船舶への積込みが許されるのは、北朝鮮内にある者が個人で使用する人道物資のみ(食料、医療品、衣料等)(輸出全面禁止措置は維持)。入港が認められる場合も、原則として、事前に認められた人道物資の積込み以外 の活動(乗員の乗下船、物資の取卸し等)は認めない。貨物検査法や船舶の入港に関する関係法令及び手続は通常どおり適用される。

                          講演中の宮本先生
                          講演中の宮本先生

特別調査委員会のメンバー

  • 特別調査委員会には委員長1 名、副委員長2名を置く。

  • 委員長:

    ソ・テハ国防委員会安全担当参事兼国家安全保衛部副部長 

  • 副委員長2名:

    キム・ミョンチョル国家安全保衛部参事、パク・ヨンシク人民保安部局長

  • 拉致被害者分科会責任者:

    カン・ソンナム国家安全保衛部局長

  • 行方不明者分科会責任者:

    パク・ヨンシク人民保安部局長(副委員長を兼任)

  •  日本人遺骨問題分科会責任者:

    キム・ヒョンチョル国土環境保護省局長

  • 残留日本人・日本人配偶者分科会責任者:

    リ・ホリム朝鮮赤十字会中央委員会書記長

    各分科会の関係機関

  • 拉致被害者: 国家安全保衛部、人民保安部、最高検察所、保健省、人民政権機関

  • 行方不明者: 人民保安部、国家安全保衛部、朝鮮赤十字会、人民政権機関 

  • 日本人遺骨問題: 国土環境保護省、人民政権機関、朝鮮赤十字会、社会科学院、人民武力部

  • 残留日本人・日本人配偶者: 朝鮮赤十字会、人民保安部、人民政権機関

    特別調査委員会に関する説明(734)の違い

  • 特別調査委員会の権限

    • (日本側)特別調査委員会は、北朝鮮の最高指導機関である国防委員会から、北朝鮮の全ての機関を調査することができ、必要に応じ参加関係機関及びその他の関係者をいつでも調査に動員することのできる特別な権限が付与される。

    • (北朝鮮側)特別調査委員会は、朝鮮民衆主義人民共和国国防委員会から、全ての機関を調査し、必要に応じ該当機関及び関係者を任意の時刻に調査事業に動員することのできる特別な権限が付与される。

    • 北朝鮮の憲法上の規定による国防委員会

    • 106:国防委員会は国家主権の最高国防指導機関である。

  • 北朝鮮側が国防委員会を最高指導機関というと憲法違反になるので、これは日本側がつくった文章である。日本国民に合意がうまくいっていることを印象付けるための情報操作?それともイメージによるミス?

    分科会の発表順番の違い

  • 日本側

    • 拉致被害者分科会

    • 行方不明者分科会

    • 日本人遺骨問題分科会

    • 残留日本人・日本人配偶者分科会

  • 北朝鮮側

    • 日本人遺骨問題分科会

    • 残留日本人・日本人配偶者分科会

    • 拉致被害者分科会

    • 行方不明者分科会

  • 北朝鮮側では、拉致問題に重点を置いているとは言い難い

    その他、日朝の説明の違い

  • 特別調査委員会の調査の形式と方法

    • (日本側)調査を深化させるために、必要があれば、日本側関係者との面談、日本の機関が持っている関連資料の共有等を行うことを希望する。

    • (北朝鮮側)必要な対象者への調査を深めるために、日本側関係者との面談、日本側機関が持っている資料や情報への共有、日本側の関係する場所の現地調査も進行する。

    • 日朝政府間協議での意思疎通ミス?

    • 特別調査委員会の残留日本人・日本人配偶者分科会責任者

    • (日本側)リ・ホリム 朝鮮赤十字会事務総長

    • (北朝鮮側)リ・ホリム 朝鮮赤十字会中央委員会書​​記長

    • 事務総長という役職は、朝鮮赤十字会で確認されたことがない。通訳上の問題か?

      日朝の文面で違いはないが、問題となっている部分

  • 特別調査委員会の運営方法

各分科会の進捗状況は分科会ごとに委員会に報告し、日本側に随時通報し、対策を立てる。

  • 菅義偉官房長官は、最初の報告時期について、7月3日の記者会見で「今年夏の終わりから秋の初めが望ましい」と述べた。これは北朝鮮と認識を共有しているとのことであった。

  • 「今年夏の終わりから秋の初めが望ましい」というのは、どこまで共有されたものだったのか?

                          聴講風景
                          聴講風景

日朝政府間協議後の報告の動き

  • 2014918日 北朝鮮の特別調査委員会による調査による通報について、「特別調査委員会は全ての日本人に関する調査を誠実に進めている。調査は全体で1年程度を目標としており、現在はまだ初期段階にある。現時点でこの段階を越えた説明を行うことはできない」と北京の大使館を通じて連絡があった。

  • 2014929日 日朝外交当局間会合

  •  北朝鮮側から調査の現状について説明を受けるためであり、調査結果についての「第一回目の通報」に当たるものではない。

    20141028日、日本政府担当者と特別調査委員会の協議

  • 特別調査委員会が初めて海外メディアに姿を見せた協議

  • 政府担当者は、28、29日の2日間にわたり、特別調査委員会の徐大河(ソ・テハ)委員長、2人の副委員長、分科会責任者等、約10時間半、面談・協議し、様々な質疑を行った。

  • 北朝鮮側の説明は、基本的には調査の現状についての説明であり、拉致問題を含め、新たな具体的な情報を含む調査結果の通報はなかった。

特別調査委員会のメンバー(一部)

特別調査委員会のメンバーは地位が低いか?

  • 定年退職制がない北朝鮮では、老年には名誉を、中年には名誉と実権を、青年には実権を与える老中青政策がある。そうでなくては、いつまでも実権が若い世代に移らないからである。老年層は名誉のために高い地位を与えているが、実際の権力はそれよりも若い中年層に与え、現場の実務は青年層が行うことになっている。

  • ソ・テハ特別調査委員会委員長が、少将であるので、地位が低すぎるという批判がある。しかし、ソ・テハは将官であるので、十分に委員長になる地位を持っている。しかも、実権は地位とは別であって、中年世代や青年世代に与えられることから、ソ・テハの地位は特別調査委員会の実権とは無関係である。

    調査はどうなるのか?

  • 北朝鮮側は、来年の秋頃までに何らかの報告をするであろう。ソ・テハ以下、特別調査委員会のメンバーは上から定められた業務を命じられているので、それを真剣に実行しなければ彼らが怠慢として処分される可能性がある。特別調査委員会が形式だけで調査をしないかも知れないというのは杞憂である。

  • ただし、調査結果が日本側の期待を満たすものであるとは限らない。その時に、日本政府がどう判断するのかが焦点となってくる

  1. 北朝鮮の調査結果を受け入れて、国交正常化に向けた協議を続けるのか?

  2. 北朝鮮の調査結果を受け入れず、再調査を求める協議を継続するのか?

  3. 北朝鮮の調査結果を受け入れず、協議を打ち切るのか?

                       懇親会に最後での記念撮影
                       懇親会に最後での記念撮影

〔著書〕

『北朝鮮によるミサイル発射と日朝交渉の矛盾をどう解くか? 宮本悟 / 朝鮮半島研究』(2014811日 SYNODOS電子マガジン)。

『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?:政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』(潮書房光人社,201310月)。

〔共著〕

中川雅彦編『朝鮮社会主義経済の現在』(アジア経済研究所,20093月)。


〔論文〕

「千里馬作業班運動と千里馬運動の目的―生産性の向上と外貨不足―」『現代韓国朝鮮研究』13(201311)pp.3-13

「朴槿恵政権による南北交流政策」 『アジ研ワールド・トレンド』第196(20136)pp.9-13

「中朝関係が朝鮮人民軍創設過程に与えた影響」 『韓国現代史研究』第1巻第1(20133)pp.7-29

など。