第22回 官邸の危機管理

平成25年7月18日(木) PORTA神楽坂 18:30~20:30

柳澤 協二 氏

小泉政権、第一次安倍政権、福田政権、麻生政権の4代にわたり内閣官房副長官補を務めた安全保障政策のプロフェッショナル

現在 国際地政学研究所理事長

1970(昭和45)3月 東京大学法学部卒
1970(
昭和45)年4月   防衛庁入庁

大蔵省主計局主計官補佐、呉施設局施設部長、防衛局計画課長、防衛審議官兼防衛局計画課長、長官官房防衛審議官、防衛参事官、防衛参事官(長官官房長)などを経て、

2004(平成16)4月より2009年まで内閣官房副長官補を務める。

概要

 

政治的意思決定をサポートし現場とのインターフェイスをとることが自分の役回りであった。

 

1. 官邸の危機管理態勢はどうなっているのか

 

1-1. 「安危補室」;省庁横断の危機管理組織

 3名の副長官補(外政、内政、安全保障危機管理)、橋本内閣で室となり安全保障危機管理は自身が2代目。

 

1-1-1.  官邸にある危機管理センターを常時運営

 定められた危機管理宿舎に居住、携帯の通信ネットワークとメールで所在確認。

1-1-2.  日常業務;危機と想定される事態研究・図上演習・絶えずマニュアルの見直し。

 日常業務の中には非常時の食料飲料水の管理や、機器設備の点検など、居住と作業環境を整えることも含まれていた。

1-1-3.  政策調整(尖閣事案、潜没潜水艦、海賊対策、テロ対策など)

 これが内閣官房本来の職務である。以前と異なり、内閣が政策企画をするようになり、この調整が厳しかった。

 

*事態は千差万別であり、マニュアルは連絡要領にすぎず、判断基準の定型化は困難であった。

 

1-2. 初動態勢・・・緊急参集から閣議決定へ

 震度5強(23区)、6弱で自動参集(メイルは来るが)、ミサイル発射、重大事故等。

<関係省庁局長級参集(30)~閣僚協議・官房長官記者会見~(安保会議)・閣議(90~120分>

局長級は課長で代行可能とされており、この初動用態勢は良く機能していたと考える。

 

1-3. 危機管理の課題

 冷戦、普賢岳、阪神淡路、サリンと連続し、自衛隊、警察、消防の何であろうと「やらねばならない」状態であった。

 

1-3-1.  各省の縦割り打破、緊急時における認識の共有・・・緊急参集チーム

1-3-2.  阪神淡路震災が契機、発災からの危機管理(初動・結果管理)に重点。「予防」に弱点。

(実は未だに弱点かもしれず、ハードは良くなったが制度が不足しているかもしれない)

*問題意識の共有、最大の「敵」は、「親元組織」

各省庁の調整が必要となるが自分の出身省庁に立ってしまう傾向あり。

*平時にどこまで持っておくか;蓋然性と最悪の事態

ケースを定義する専門家とその対策としての政策決定者のリスク分担。

 津波で明らかなように過去千年分も持つべきとか、対策と国民の利便性のバランス(監視カメラ等)は厳しい問題である。

 

                           講演風景
                           講演風景

 

2.実際の危機管理事例の教訓


 自身の経験は98年のテポドンを防衛庁で経験しており、全部のミサイル発射時を経験した。

 

2-1. 北朝鮮ミサイル;

 06年小泉内閣、09年菅内閣、12年野田内閣と直接関与する部署にいた。06年の北朝鮮は、中距離、長距離、大陸間と3つの射程を顕示することで、対米国向けの意図が明らかであった。

09年の危険空域を通告しての発射に際して、M-Netを使って配信したものの誤報であった。

これは、機能の有効性が確認されたものとして評価したいと考えていたが、後に、誤報を問題としてしまったことが、12年の発表が遅れたことに繋がってしまった。

リスクと社会活動への影響を正しく判断せねばならず、この際の政治への提言を行うことが役目であった。

 

2-2. 尖閣上陸等の事件;04年と10年、12年の対応の違い

 04年は入管法違反と器物破損であった、10年は体当たり公務執行妨害、12年は石原都知事による都有地化から野田内閣による国有地化であった。

*情報は、時間の問題もあるが、判断できるほどには多くなく、迷わないほどには少なくない。

*情報の秘匿とオペレーション

   情報ソースの秘匿と運用への伝達が難しい、常に互いが良好な関係を保つことが重要

*出口シナリオの難しさ

   終了の判断、PAC3の撤収時期を引っ張り過ぎ、現場にやる気が無くなり疲労が溜った状況。

*現場のやる気と中央の抑制、責任の所在

現場は高い意識を持って対処をせねばならないが、万一やエスカレートを抑えるのは現場指揮ではなく、「責任はこちらが取る」との中央の抑制によるものでなければならない。

 

 

 

     ここでは、空自機による敵機との

     会敵を例として、中央による抑制

     の実際が解説された。

 

3.危機管理における政治の役割

 

3-1. 現場と政治

  国家目標・戦略・戦術;日本には、戦術はあるが戦略がない

 国家としての大きな目標があって、現場の行動がある、行動とは戦術である。

この戦術レベルがしっかりしていて、戦略(頂点)としての危機管理が政権の危機管理となっているのが我国である。(他国は?)

  政策PDCAサイクル(検証)の不在

 今を検証すればいかなる事態となるか。

 

3-2. 総理は何を悩むか、現場は何を悩むか

 総理は孤独な最終判断者である。

 事例として、洞爺湖サミットの際に、ハイジャックされた旅客機を撃墜するのはパイロットであるが、現法令では彼に殺人罪他の適用が免れない、そこで、命令者は総理ということで、責任者になって頂く、とのシーンがあった。

  何かを優先することは何かを捨てること

  「戦場の霧・摩擦」に対する認識と責任の共有

  法令で悩むのはやさしい。必要性で悩むべき

 

4.日本版NSC構想への疑問

 特徴:4大臣会議と強力な事務局、情報集約の義務付け

 

4-1.会議体としての機能;有事対応と平時の議論、何を目指すのか?

 

4-2.政策情報集約:情報による政策への迎合、権威による評価付けの危険

*鍵は、閣僚の資質を含む人材の育成

 官房長官、外務大臣、防衛大臣の3者招集は従来から行っていた、この3大臣会談は意見も活発で機能していた。これに総理が加わり4大臣会談で自由な意見交換が期待できるだろうか。

政策決定者が何を欲しているかは分かるが、法によって情報収集と共有が可能になるとは思わない、むしろ、それなりの人物がやる気になれば明日からでも可能になるだろう。

そのような人材の育成が重要であろう。

                          出席者交流会風景
                          出席者交流会風景

 

 

柳澤 協二 氏 著書、


「検証 官邸のイラク戦争」 元官僚による批判と自省 柳澤 協二 岩波書店刊 (2013/3)

「国防軍」私の懸念 安倍新政権の論点 伊勢崎 賢治, 柳澤 協二, 小池 清彦かもがわ出版 (2013/3)

「対論 普天間基地はなくせる」日米安保の賛成・反対を超えて 伊波 洋一, 柳澤 協二 かもがわブックレット (2012/5)

「脱・同盟時代」総理官邸でイラクの自衛隊を統括した男の自省と対話 柳澤 協二, 大野 博人, 古山 順一, 志葉 玲 かもがわ出版 (2011/7)

「抑止力を問う」元政府高官と防衛スペシャリスト達の対話 柳澤 協二, 道下 徳成. 山口 昇, 植木 千可子 かもがわ出版 (2010/10)