第16回 オバマ第二期政権の米中関係の展望

平成24年12月12日(水) PORTA神楽坂 18:30~20:30  

 

川上高司(かわかみ たかし)氏 拓殖大学海外事情研究所副所長・教授

1955年熊本県生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)Institute for Foreign Policy Analysis(IFPA)研究員、()世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授を経て現職。この間、ジョージタウン大学大学院(ペンタゴンプログラム)留学、RAND研究所客員研究員、参議院外交防衛委員会調査室客員調査員、神奈川県参与(基地担当)()国際間題研究所客員研究員。

現在、拓殖大学海外事情研究所副所長・教授の他、中央大学法学部兼任講師、NPO法人外交政策センター(FPC)代表、()国際情勢研究所委員、フレッチャースクール外交政策研究所研究顧問などを兼務する。

主な所属学会は、国際政治学会、アメリカ学会、国際安全保障学会、日本政治学会、ISAIISS

 

Ⅰ オバマ大統領再選の分析とその意味するもの

 

1. アメリカの 「構造的変化 (Demographic Change)

 〇 激戦州(オハイオ、ペンシルバニア、コロラド)での有色人種(特にヒスパニック)の増加

 〇 全米人口(31,000万人)中、約3分の1(12,000万人)が有色人種

 〇 ヒスパニックはオバマ、白人はロムニー、女性はオバマ、男性はロムニー

 

ヒスパニック

白人

女性

男性

オバマ

71%

39%

56%

46%

ロムニー

27%

59%

44%

54%

 

                 川上先生
                 川上先生

2. 「宗教の壁」の消滅               

 〇 宗教がほとんど問題とならず

 〇 政治と宗教は切り離すべき

 

3. 「格差」(貧困層vs.富裕層)の影響

 〇 貧困層 vs 富裕層

 〇 ロムニーはTop%の富裕層に属する

 〇 米経済の低下

 〇 オハイオでの有権者の投票

                                    激戦州の年間所得5万ドル以下の住民の割合(%) 

 

全米

オハイオ

フロリダ

ヴァージニア

アイオワ

コロラド

ニューハンプシャー

ウィスコンシン

2008

38

44

39

30

43

25

33

42

2012

41

45

45

35

43

39

31

41

+3

+1

+6

+5

0

+6

-2

-1

                                                                    (Washington Post電子版出口調査)

4. 米大統領選挙分析 ⇒ 選挙戦術の明暗オバマの大統領選挙戦術の勝利

 〇「情報線」でのオバマの勝利(ネガティブキャンペーンの成功)

 〇「政治献金」戦術でのオバマの勝利

 〇「3つの選挙戦のドメイン」でオバマの勝利

  ・ [地上戦] ⇒      「ボランディア網」のオバマ陣営のPower Up

  ・ [サイバー戦]SNS(Social Networking Service)やスマホ・アプリを使った参加型選挙

  ・ [空中線] ⇒      オバマ陣営は春からスタート、ロムニー陣営は選挙戦後半で出遅れ

 〇 共和党指名時に「資金破綻」(Washington Post)1億ドルを使い果たす

 

Ⅱ オバマ2期目の優先順位

 

1. 外交より国内優先

 〇「分裂」の危機の回避

 〇 経済格差の是正(富裕層へ増税、中低所得者への優遇措置) ⇒ 従来の白人富裕層の反乱 ?

 〇 医療保険 ⇒ 短期間で無保険者を保険に入れ、医療費の伸びを抑えることは可能か ?

 〇 移民政策 ⇒ 優遇すれば人口動態にはずみがつき、白人との亀裂が深まり社会不安 ?

 

2. 財政の崖

 〇 2013年から「実質的増税」と「強制的歳出削減」のダブルパンチ…財政の崖

  ・ 減税(最大2000億ドル、給与税減税約1000億ドル) +歳出削減(1100億ドル)

 

3. 財政危機回避

(1) アメリカの財政事情

 〇 前政権からの累積赤字は2.4兆ドル

 〇 財政赤字削減 ⇒ 国防費削減 ⇒ 国防戦略の転換

(2) 米議会の軍事費削減要求

 〇 予算管理法(Budget Control Act)24千億ドルうち国防予算5千億ドル2013年から削減

 〇 デフォルト・デッドライン ⇒「トリガー条項」(2013年から発動)24,000億ドル削減

 〇 2013年以降 国防費 約5,000億ドル削減(その他は社会保険費等を強制削減)

 

4. オバマ政権の軍事費削減

(1) 「予算の優先頂位と選択」(Defense Budget Priorities and Choices, DOD, Jan 26,2012)

 〇 米軍のアジアへの「戦略機軸」(Strategic Pivot)のシフト

 〇 次の5年間 2,590+5,000=7,590億ドル削減 !

(2) 軍事費削減4つのシナリオ(CNAS: Hard Choices)

  ① 第1のシナリオ「再配備とリセット」3,500-4,000億ドル削減

  ② 第2のシナリオ「抑制されたglobalなプレゼンス」5,0005,500億ドル削減

  ③ 第3のシナリオ「選択的レベレッジ(Selective Leverage)6,500億~7,000億ドル削減

  ④ 第4のシナリオ「経済重視の軍事力」8,000-8,500億ドル削減

 

Ⅲ オバマ大統領の新軍事戦略

 

1.「全世界における米国のリーダーシップの堅持-21世紀の国防戦略の優先事項」

       (Sustaining U.S. Global I Leadership: Priorities for 21Century Defense)

(1) オバマ政権の新防衛戦略

 〇 戦時から平時へ ⇒ イラク、アフガニスタンからの撤退

 〇 無極化時代のアメリカの安全保障政策

(2) 新国防戦略の背景

 〇 2つの戦争(アフガニスタン、イラク)の終結

 〇 軍事費を大幅に削減 ⇒ 次の5年間 2,590+5,000=7,590億ドル削減

 

2. 新国防戦路のポイント

(1) 米軍の2正面戦略からの後退~「イラン+中国 正面」との関係

 〇「2正面戦略」からの撤退

 〇 バネッタの軍事費削減の真意・・”Defense Budget Priorities and Choices" January 2010

(2) 米軍の闘い方の変化

 〇 Power Projectionから⇒ ①+

① 陸は「特殊部隊」+「無人機」

   ② 海・空(AirSea)は 「サイバ一」「宇宙」「Under the Sea」から潜在敵やテロリストを攻撃

 〇 効率的に米軍が優位を確保する

 〇「2017年まで特殊部隊を37千人(9.11テロ当時)から72千人(2)に増強」(Panetta)

(3) 将来の米軍の主要エレメント

     ・・Panetta at the Shangrila Dialogue in Singapore June 2,2012

   ① 先端軍隊化⇒          小規模でスリム化、機敏+柔軟性+緊急展開可能、最新技術装備

   ② Rebalance化 ⇒      潜在的問題地域べ投入ずるため態勢・Presence再編

   ③ GlobalPresenceの確保 ⇒同盟国との同盟強化、新たな友好国確保

   ④ 潜在敵国に対する比較優位の維持

   ⑤ 技術・能力への投資

IV オバマ政権の対中政策

 

1. 現在の米中関係

 〇 経済的には友好国 = 対中「関与」(engagement)

 〇 軍事的には潜在敵国

 

2. オバマ政権の対中政策

 ○「中国は敵対者であると同時に、国際社会でルールに従っているならば潜徨的パートナー だ。

     そのため、就任中の中国に対する私の姿勢は、中国が他国と同じようにルールに従うことを米国

     はめることだった」(オバマ大統領、2012年大統領選挙中のspeech)

 ● 米国の対中政策   あいまい戦路 ⇒ 「ヘッジ(hedge) X「関与(engagement)

    「中国をヘッジ’Hedge」し国際社会に関与(Engagement)させ責任ある利害関係国

    (Responsible Stakeholder)にする」

 〇 2025年「米中逆転」⇒中国の台頭と米国の相対的地位の低下⇒パワーシフト中国の台頭への

     備え(Hedge)

 

3. 中国は「白由で開かれた国際秩序」へ参加可能か ? ()「否」⇒ その理由

 ① 中国の政治体制が政権交代を前提としない一党支配体制と白由主義の制限に成り立っている

 ② 社会主義市場経済の下で、政府による市場介入度合いの高い産業政策を続けている

 ③ 富の格差や社会保障制度の整備の遅れなどで、社会的不安性が高い

 ④ 核心的利益の獲得と経済発展の基礎(毎年8%成長)の維持において、中国が国際社会と妥協ずる

   余地は余りない

 ⑤ 中国は「自由で開かれた国際秩序」の恩恵を享受し、一方、核心的利益を追求ずるという、

     難しい舵取りを迫られている !

 

4. 戦略機軸(Strategic Pivot)のシフト ー対中"Hedge"(囲い込み)

 

 (1) バネッタ国防長官の国防戦略の詳細説明(IISSのシャングリア講演-2012.6.2)

     「…米国は台頭ずる中国を睨みながら軍事的軸足(Strategic Pivot)をアジアに移し、中国との

      リバランス(rebalance)を目指す」

 (2) 戦略的基軸(Strategic pivot)のアジア・シフト

   ア. 戦略的基軸(Strategic pivot)

        〇 アジア太平洋は21世紀の成長センター、米国の繁栄を左右する重要地域

        〇「戦略基軸(Strategic pivot)」のアジア・シフト

        〇 Game ChangerとしてAssertiveに台頭する中国をHedgeずる

        〇 戦い方の変化

   イ. 戦略:基軸(Strategic pivot)のコインの面と裏(Pross and Cons)

 

5. どう中国をHedge(囲い込みするカ) ⇒ 地域抑止(Tailored Deterrence:適合抑止)

 〇 米軍の前方展開を併せ持つ同盟国と友好国からなるアーキテクチャーを強化する (QDR2010)

 〇 対中包囲網のリスト 第一~第三

 

6. 再選オバマ大統領のASEAN訪問 (=アジア重視)

 ● タイ(11/18) ⇒ ミャンマー(11/19) ⇒ カンボジア(11/20)

 〇 タイ ⇒          ① 同盟強化重視シグナル(Cobra Gold, CARAT)、国交樹立180年の節目、

                            2012 Join Vision Statement for the ThaiUS Defense Alliance(11/15/2012)

                     ② インラック首相「TPP参加」表明

 〇 ミャンマー ⇒ 民主化(受刑者恩赦)、②核放棄(北朝鮮との軍事関規)、中国にくさび

                 米:17千万ドル援助表明、制裁解除

 〇 カンボジア ⇒ 米、EAS(東アジアサミット)で中国に「海洋安全保障間題を国際法に基づき、

                 多国間枠組みで解決するよう」「南シナ海行動規範」策定要求。

*Cobra Gold ⇒ タイ、米、韓国、マレーシア・シンガポール・インドネシア・日本

*CARAT  米・バングラ・ブルネイ・カンボジア・インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ

 

V 今後の課題 一 尖閣諸島にどう対処するか

 

1. 対処方法

 〇 潜在的係争地域(現状維持)

 〇 戦略的棚上げ

 〇 軍事的占拠

 〇 戦略的放棄

 〇 国際司法裁判所

 

2. 米軍を「巻き込む」⇒ 日米安保はどの程度機能するのか ?

 〇 尖閣列島と米軍の抑止力

 〇 米国の立場 ⇒「日本の施政下にある限り日米安保5条は適応されるが、領土間題には中立」

     11/20/2012 米上院本会議、2013年会計年度国防授権法に追加 ⇒ 行政府と立法府がsupport

 〇 一連の事案と米国の立場

 

3. Armitage Report Ⅲ 一The US Japan Alliance: Anchoring Stability in Asia, August 2012

 ● 日本は一等国(tier one nation)か、二等国(tier two nation)か重大な転機に迫られている。

 ● 原子力発電の再開は目本にとり正しく責任ある一歩。

 ● 地域の安定・繁栄には日米韓の強い同盟が重要。目本は韓国との歴史問題に正面から取り組む

 ● 日本は中国の台頭への対処能力・政策を持つべき作り上げる必要がある。中国がパワーをどう

     行使するか不透明で、懸念が増大している。

 ● 日本は自国防衛に加えて責任を拡大し、アメリカとともに地域の緊急事態に対応すべきだ 。

 ● 日本は米軍普天間飛行場問題に時間と政治力を費やし過ぎた。

 

4. 抑止力をどう確保(リアシュアー)するか

 ● 憲法改定

 ● 集団的白衛権の行使

 ● RMC(役割・任務・能力)の役割分担再考

 ● 抑止力向上(抑止力の確保)

 ● 白衛隊の予算・能力・人員増強

 ● 日米プラス

 

5. 日米関係をどう深化させるか

 ● 白衛隊の南西シフト

 ● 武器輸出三原則の緩和

 ● 原子力基本法改正 ⇒          核保有 (非核三原則の修正 → 非核二原則)

 ● 改正宇宙航空研究開発法 ⇒ 宇宙の安全保障利用

 ● フロンティア委員会 ⇒       集団的白衛権

 

6. 今後の米中関係4つのシナリオ

 〇「第一のシナリオ」米中衝突 ⇒       2025年頃に中国GDPが米国を凌駕

 〇「第二のシナリオ」米国覇権維持 ⇒ 中国の国内情勢不安定+経済発展鈍化

 〇「第三のシナリオ」米中G2体制 ⇒   両国国内政治不安定

 〇「第四のシナリオ」中国覇権 ⇒       米国がオフショア戦略になり新孤立主義をとる  

              質問に優しく対応される川上先生
              質問に優しく対応される川上先生

川上高司(Dr. Takashi Kawakami)

拓殖大学海外事情研究所教授・副所長

大学院国際開発研究科安全保障専攻主任

主な著書に『日米同盟とは何か』(中央公論社、2011)、『現代アジア辞典』(文眞堂、2009)、『アメリカ世界を読む』(創成社、2009)、『アメリカ外交の諸潮流』(目本国際間題研究所、200710)、『グローバル・ガバナンス』(目本経済評論社、2006)、『米軍の前方展開と日米同盟』(同文舘、2004)、『米国の対日政策』(2001年、同文舘出版)、『国際秩序の解体と統合』(東洋経済、1995)等多数。