第15回

第1部 これからのインフルエンザ対策、ワクチンと抗インフルエンザ薬

平成24年11月28日(水) ポルタ神楽坂 18:30 - 19:30

 

神奈川県敬友会 けいゆう病院 参事 医学博士 菅谷 憲夫 氏

 

日本で確立した迅速診断とノイラミニダーゼ阻害薬治療の有効性は、H1N1/2009によるパンデミックによる我が国の極端に低い死亡率で証明され、同時に世界各国からはノイラミニダーゼ阻害薬治療の遅れが死亡・重症化の最大要因であることが報告された。

2011-12のシーズンには全国で大規模なA香港型インフルエンザの流行が起きた。流行ウイルスは、ワクチン株であるA/Victoria/210/2009 (H3N2)から8倍から16倍変異していた。大きな変異幅であり流行拡大は抗原変異が原因であった。

このような時は、抗インフルエンザ薬の予防投与が重要となる。日本で適応が認められているノイラミニダーゼ阻害薬はオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビルの4種類である。各薬剤の適切な使用法を確立していく必要がある。

 

第2部 強毒性新型インフルエンザ対策の再構築

平成24年11月28日(水) ポルタ神楽坂 19:45 - 20:30

 

財団法人 労働衛生協会 医学博士 青山キヨミ 氏 (元東京都みなと保健所長)

 

基本的な認識

⑴ 新型インフルエンザ(A/HN1)の病原性は、現時点では「季節性」と「軽微」の間である。

⑵ 「新型」ではあるが、高齢者は免疫を持っている可能性があり、日本においても、感染者の圧倒

  的多数は10代の高校生が占めている。

⑶ 臨床症状は、季節性インフルエンザと同程度であるが、慢性疾患(糖尿病、喘息などの

  呼吸器疾患、心疾患)や妊婦では重症化する場合がある。

                       熱心に聞き入る参加者
                       熱心に聞き入る参加者

2009/6/10 港区S高等学校における新型インフルエンザ発生への対応

①インフルエンザ様症状で欠席の生徒4人と教師2人:

  居住地保健所に、発熱外来への受診勧奨とPCR検査の実施を依頼

②問診票と検温による調査で感染が疑われた3年生8人:

  港区内発熱外来受診、PCR検査実施 4人確定(6/11)

③濃厚接触者の抽出:

  (ⅰ)3年生全員:354人(学校側:絞込みは、選択科目や部活・友人など複数の交流があり困難

     との由)確定患者1名の時点で、8クラス中6クラスに疑い例あり

      (ⅱ)確定患者の所属部の1年生13人、2年生9

  (ⅲ)確定患者と接触のあった教員:6

④上記濃厚接触者に対し、タミフル(港区独自の備蓄分を薬剤師会より搬入)を配布

  (この時点で、一般医療機関でのタミフル、リレンザの入手は困難で、発症した場合の即時服薬

         に懸念があった。)

  学校長と保健所長の連名で、保護者宛に予防投薬の要請と注意文書配布

⑤学校を通じ、全生徒の自宅待機中の健康観察を依頼

⑥全生徒と教職員の健康観察を学校で一括管理し、学校に相談のあったケースは、みなと保健所が居

   住地の管轄保健所に連 絡調整を行う方針で合意

⑦休校は611日から17日までとした(都指示で後に21日に変更):確定患者の発症は16日が最終

⑧全生徒に広報みなと臨時号(新型インフルエンザのお知らせと予防法を記載)配布

⑨帰宅時のマスク着用(S高校で備蓄)を指導

 

結果

確定患者(610日~16日に結果判明):生徒15人、教職員4(港区民0人)

介入後の2次感染者:0人(6/5発症の千葉市在住教員の長男が6/9発症、6/12確定)

アンケート調査:みなと保健所実施、 回答率は約100% (996/997)

 予防内服率(都の内服中止・回収指示により、生徒104/149人が1日のみ服薬、教員22/38

 が10日間服薬)

                 予防内服中の発病者は、 生徒 3(11.12.13日に各1)

考察

 ※ 集団感染の拡大が懸念される中で、S高校生を介しての更なる感染拡大、とりわけ家庭内の妊

   婦・ハイリスク者・兄弟姉妹への二次感染の予防は、喫緊の命題である。

   ※ 健康危機管理においては、最初の疑い例の情報入手から、初動時に徹底した感染拡大予防策を

   とらねば、一旦拡大を始めた感染を収束させることは極めて困難である。

※ 保健所が管轄内の医療機関をはじめとする関係機関から、相談という形で情報を寄せてもらえ

  る関係を構築しておくことが、早期の感染症情報入手と早期対応につながることを、肝に銘じ

  ておく必要があると考える。

 

Pandemic Influenza A/H1N1 2009

<厚生労働省の対応> 青山キヨミ私見

① ウイルスの毒力を踏まえず、直前に策定された行動計画に基づき強毒型対応

② 蔓延国からの入国者全員に7日間毎日保健所から電話する『健康観察』は、無効(世界的にも著

    名なホテルの多い港区では対象者は実数で5800人を越えたが、発見者は0)。

  みなと保健所が、事前に管轄内の宿泊施設に出していた通知に基づくホテルからの通報により把

  握したケースあり。

  潜伏期間中に入国し、発症まで本人も感染に気づかぬインフルエンザ等の感染症では、『発症時に

  はすぐに、必ず発熱相談センターや保健所に電話連絡すること』を、どこの国からであろうと入

  国者全員に徹底することが重要。

③ 国内でのサーベイランスの軽視による、集団発生の早期探知の遅れと感染拡大

<日本の致死率は、0.001%未満 諸外国の10分の1程度で、世界最低>

① 医療へのアクセスがよく、医療の質が高い

② ワクチン開発を素早く実施、そのワクチンが有効だった(ハイリスク者は地方自治体が無料で接種

  (港区が先行実施))

③ 発症者には、早期にタミフル・リレンザなどの抗インフルエンザ薬投与

④ 濃厚接触者に対するタミフル・リレンザなど抗インフルエンザ薬予防投与により家庭内感染・集

  団内感染の未然防止

⑤ 公衆衛生上の施策(学校閉鎖・特養ホームの面会制限・集会の制限など)の実施

⑥ うがい、手洗い、マスク,咳エチケットなどの徹底

 

インフルエンザA香港型20112012シーズンへの対応

※ 201111月、三重県保健環境研究所からの報告の周知が殆んどなされなかった。

    10月下旬に三重県で発生の集団感染例ウイルス株はAH3型で、「抗原解析の結果、今シー

    ズンのインフルエンザワクチン株との反応性が低いのでAH3型の動向に警戒し、特に高齢

    者や乳幼児の重症化に注意を」と警告

※ 各地の衛生研究所からの報告で、「AH3型についてワクチン株と類似している株は、0から

  20%程度」の周知も遅れた。最終的には、ワクチン変異株は45.6パーセント。

    横浜市衛生研究所は、市内で検出されたインフルエンザウイルスAH350株の抗原性解析

    で、ワクチン株と類似していると考えられる株は1株(2%)のみで、HI試験で8倍が24

    株(48%)、16倍が25(50%)と報告

※ 感染性が未だある、治癒後早期の登校・登園・出勤による感染の拡大

    特に、抗インフルエンザ薬イナビルによる12日の解熱で、ウイルス排出期間の5日間中

    に登校。文部科学省は、20124月1日より省令を改正し、インフルエンザの登校停止基

    準を「発症後5日を経過し、かつ解熱した後2日間(幼稚園は3日間)」とした。

      ワクチンが有効でない状況下で、濃厚接触者への予防投薬は集団感染の拡大を防ぐに必要。

※ 学校・保育園・幼稚園・特養ホーム・家庭・職場等における空間ウイルス除去が必要

          講演中の青山キヨミ先生
          講演中の青山キヨミ先生

インフルエンザワクチン

A/H3N2亜型ウイルス

今シーズンに入ってから分離されたウイルスは、ワクチン株に抗原性が類似。高齢者や成人、就学前の小児らから分離(昨シーズンは、学童中心)。幅広い年齢層で流行の懸念あり。

A/H1N1pdm09ウイルス

インド・ネパール・ラオス・タイなど夏以降に流行が見られるアジアの国々からの輸入事例の報告があり、注意が必要。

B型ウイルス>

山形系統のウイルス分離。2004/2005シーズン以降主流となった流行がなく、人々の間の抗体保有率も低い傾向。ワクチン接種等の感染予防対策が必要。今冬は、インフルエンザワクチンの積極的な接種が望まれる。

 

主要な抗インフルエンザウイルス薬

2011/12シーズン ノイラミニダーゼ阻害薬使用実績(日経メディカルオンライン医師会員調査より n794

  タミフル  (オセルタミビル、経口)   56.4

  イナビル  (ラニナビル、吸入)           24.2

  リレンザ   (ザナミビル、吸入)      16.1%

  ラピアクタ (ペラミビル、静注)             1.9%

 

新型インフルエンザ等対策特別措置法の背景について

東南アジアなどを中心に、家禽類の間でH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザが発生しており、このウィルスが家禽類からヒトに感染し、死亡する例が報告。

このような高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のウィルスがヒトからヒトへ効率よく感染する能力を獲得し、病原性の高い新型インフルエンザが発生することが懸念。

平成21年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)の経験を踏まえ、

  平成23920日に、政府の「新型インフルエンザ対策行動計画」を改訂

  新型インフルエンザ対策の実効性を確保するため、各種対策の法的根拠の明確化と法的整備の

  必要性により、

政府行動計画の実効性を高め、新型インフルエンザ発生時に、その脅威から国民の生命と健康を守り、国民の生活や経済に及ぼす影響が最少となるようにするため、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を制定

     内閣官房新型インフルエンザ等対策室 新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する

      都道府県担当課長会議資料より抜粋

 

新型インフルエンザ対策

 

三層防衛

 

空間ウイルス除去

 

マウスのインフルエンザ感染死亡に対する「低濃度塩素ガスの影響」

              Norio Ogata and Takashi Shibata Journal of General Virology 89,60-67(2008)

 

二酸化塩素の微生物に対する作用モデル

               質問に答える青山先生
               質問に答える青山先生

二酸化塩素ガス溶存液が除去効果を示したウイルス、細菌、真菌

※ <ウイルス>インフルエンザウイルスA、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの代替

   ウイルス) 、ヒトアデノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトヘルペスウイルス、

   ヒト麻疹ウイルスなど

※ <細菌>黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑濃菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、

   カンピロバクター、ジェジュニ、セレウス菌

※ <真菌>クロカビ、ペニシリゥム・シトリナムなど

         (出典:三浦、柴田 アニテックス、 21(5)pp.11-16(2011))

 

二酸化塩素放出剤の介入とインフルエンザ様症状患者数

インフルエンザの流行シーズンに、隣接した2つのオフィス棟で、片方は全室に低濃度の二酸化塩素発生ゲル剤「クレベリンゲル」を設置、もう片方には設置せず、インフルエンザ様症状を呈する勤務者数を測定( 20091月~3月)

二酸化塩素放出薬のインフルエンザ様症状に対する相対危険度(relative risk)

   relative risk =(8/345)/(32/442)=0.32    

   **P0.05 非介入群に対して有意差あり

   (出典:三村ら:環境感染誌、25(5)pp.277-2802010))

 

消臭剤として設置した二酸化塩素ガス発生ゲルの、小学生の累積欠席率低下への影響

38日間の経過、結果は?

欠席者数、欠席率(累積)

生徒数

 出席者        欠席者

二酸化塩素ガス発生ゲル設置  1272 (98.5%)  20 (1.5%)

未設置            21634 (96%)   900 (4.0%)

     出展:Ogata N. and Shibata T. International journal of Medicine and

     Medical Sciences,2009 inpress