第5回 平成25年10月5日 専売ホール 13:00~17:00

「外交・安全保障を考える」      

 中国船海自船衝突事件、尖閣国有化問題、竹島領有権問題、北方領土返還問題、北朝鮮問題、TPP参加、靖国神社参拝、憲法改正等多くの問題が重層的にクローズアップされ、今後の外交、安全保障をどうするかについて議論が活発化しています。

 2012年12月の政権交代に伴って外交政策も大きく転換しつつある今日、私たち市民も外交、安全保障問題を自らのこととしてあらためて考える必要があります。

 経済がグローバル化し、ビジネス、資源、エネルギー、食糧などの海外への依存度をますます高めつつある我が国にとって、主要先進国との関係、東アジア近隣諸国との協調のバランスをどうとるかなど、国民各レベルでの真剣な議論が必要です。

 今回の市民講座では、外交、安全保障問題の専門家をお招きして、我が国の置かれた状況、課題、対応策はどうあるべきか等について、ご講演をして頂きました。

 

講演1

海洋政策

 

山田 吉彦(やまだよしひこ)氏 

東海大学海洋学部 教授

 

 

 

プロフィール:

1962年千葉県出身。学習院大学経済学部を卒業後、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)勤務を経て、1991年から日本財団(日本船舶振興会)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任する傍ら、多摩大学大学院修士課程を経て埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。2008年に東海大学准教授に就任し、2009年教授となる。

わが国の海上保安体制、現代海賊問題、離島問題など海洋問題に造詣が深い。海洋政策研究財団研究員、国家基本問題研究客員研究員。

 

日本財団が北朝鮮工作船の一般公開を行ったときに企画、運営の責任者を務める。沖ノ鳥島民間調査団の事務局長として、沖ノ鳥島の利用方法の提言を作成。 20113月に竹富町(沖縄県八重山郡)が日本で最初に策定した地域における海洋基本計画「竹富町海洋基本計画」策定委員長。2012年、石垣市が海洋環境保全、海洋開発、尖閣諸島問題などの対策を検討した「石垣市海洋基本計画」策定委員会会長。20127月(20133月退任)東京都専門委員。

 

著作の『海賊、マラッカの風の中で』(ペンネーム大橋郁)で、第3回海洋文学大賞〈日本海事広報協会主催〉佳作入選。

 

1.はじめに

ローマ時代、「海は万人の共有財産」と考えていた。この考えは以後、国際社会においても踏襲され、1609年、国際法の父と呼ばれるオランダ人グロティウスは「自由海論」を著し「海はどこの国にも属さず、その利用は基本的に自由である」とした。

第二次世界大戦は、科学技術世界に飛躍的な発展をもたらした。特に航空機および船舶の進歩は、目にみはるものがある。潜水艦は、海中での行動を改善し、海洋調査、海洋資源の開発を促進した。また、大型航空母艦は、都市機能を洋上に持ち出したようなものになった。これらの技術革新は、海洋の持つそれまで潜在的であった価値を現実のものと変えていった。特に海底資源の開発が飛躍的に進歩した。

大戦が終戦した1945年、米国のトルーマン大統領は「アメリカ合衆国の沿岸に接する(約182.5mまで)大陸棚の海底と海底下の天然資源はアメリカ合衆国の管轄下である」「アメリカ国民だけが漁業を行ってきた水域はアメリカ合衆国が保存水域を設定して漁業資源の保存を図る」と宣言(トルーマン宣言)し、独占的に沿岸域の開発・利用を推進した。このことにより、先進国が競って海底資源開発に乗り出したため、海洋の管理に関する新たなルール作りが必要となった。

海洋開発にかかる権利の所属に関しての議論が進められる中、1967年マルタのバルドー国連大使が「深海底は人類共通の財産である」と発言したことが支持され、深海底開発における国際規則作りが進められ、1982年の国連海洋法条約の採択へと進んだ。

公海および深海底における海洋の開発に関する規則作りは、その反面、排他的経済水域および大陸棚における権益の重要性を顕著にし、各国は管轄海域の拡張に向け動き出した。

国連海洋法条約は、1958年に採択された「公海条約」「領海条約」「漁業・公海生物資源保存条約」「大陸棚条約」を発展させ82年に採択、94年に制定された。その審議の過程では、領海の範囲が議論され、沿岸国による海洋権益をめぐる議論が進められていた。

 

2.日本の海洋管理

日本の海の領域は広い。国土の面積は約38万㎢であり、国連加盟国中61番目の広さとなり大きな国であるとは言えない。しかし、管轄海域の面積を考えると話が違う。管轄海域、すなわち領海+排他的経済水域の面積を合わせると約447万㎢にも及ぶ。この面積は世界で6番目の広さであるといわれている。日本が管轄する海域である領海+排他的経済水域を「日本の海」と呼ぶこととする。 

この日本の海の海面下に存在する海水の量は、約1,580万㎦にもなり、世界で4番目の大きさになる。日本の海は世界で4番目に大きく、世界で6番目に広い。さらに、2012年国連大陸棚限界委員会の勧告により日本の持つ大陸棚の面積が確定すると、日本が管轄する海洋の面積はさらに拡大する。

日本の海が広い理由は、北は択捉島から南は沖ノ鳥島までの距離は、約3,020㎞、東は南鳥島から西は与那国島までは3,143㎞あり、この海域に6,852の島が点在しているからである。特に基線の根拠となる離島、いわゆる国境離島の数は99に上り、これら国境離島から広大な排他的経済水域が広がっているのである。

本来、海は領海と公海に二分されるが、1982年に議決され、1994年に発効した国連海洋法条約では、海の領域を①「領海」②「接続水域」③「排他的経済水域」④「大陸棚」⑤「公海」⑥「深海底」と区分している。それぞれ、沿岸に引かれた「基線」から、限界となるまでの距離が定められている。基線は、通常、最干潮時に海面と陸地が接する「低潮線」とされている。ただし、海岸が著しく曲折しているか、または海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所では、適当な地点を結直線を基線とすることができる(直線基線)。

日本の場合は、海岸線が複雑なこと、また、島が多いことから全国15の海域で162本の直線基線が政令により採用されている。

(1海里は、1.852km。目安は、12海里は約22km。200海里は約370kmである。)

    領海 

領海は基線から12海里(約22㎞)を超えない範囲で制定することが国連海洋法条約により認められている。領海においては、上空や海底においても沿岸国の主権が及ぶ。ただし、国連海洋法条約では、「沿岸国の平和や秩序、安全を害しない限り、すべての国の船舶の通行認めなければならない」と定められている。これは、「無害通行権」と呼ばれ、「航海自由の原則」が認められているのである。ただし、潜水艦は他国の領海においては、浮上し国旗を掲揚し通行しなければならない規定となっている。200411月中国の原子力潜水艦が、この国際法を犯し日本の領海内(宮古島と石垣島間)を潜航し通過する事件を起こした。

入り江や内湾などの基線の内側にある水域は「内水」とされ、原則、無害通行権も適用されず、沿岸国の主権が完全におよぶ範囲である。

日本は、明治維新後1872(明治5)年、太政官達により領海を三海里と定めた。その後、100年以上がたち国際情勢の変化に伴い1977(昭和52)年に領海の幅を12海里に変更した。

 

*特定海域

宗谷海峡、津軽海峡、大隅海峡、対馬海峡の東水道・西水道の五か所の海域は、国際通航船舶が多いとの理由から「特定海域」として、領海の幅を現在も3海里としている。「非核三原則」と「潜水艦」対応により定められたといわれている。政府としては、核兵器搭載船の領海内の通行、潜水艦の潜航を認めることができないため、あえて領海を放棄したとされている。

 

    接続水域

接続水域は、予防海域と呼ばれる。自国の領土または領海内における通関上、財政上、出入国管理法上または衛生管理上に関する法令の違反を防止し、取り締まりや処罰をすることができる。言い換えると行政目的において外国船舶に対する規制を行うことができる海域である。国連海洋法条約により認められ、基線から24海里(約44.5km)の幅を限度に設定される。日本は1996年に領海法を「領海及び接続水域に関する法律」と改正し接続水域を設定した。接続水域の概念の始まりは、米国の禁酒法時代にさかのぼる。1919年、禁酒法を定めた米国は、酒類の密輸を防ぐために領海外においても取り締まりを行った。現在の日本では、船内に伝染病が蔓延している可能性がある場合などに立ち入り検査を行うなどの措置をとることがある。接続水域においては、船舶の自由通行が保証されている。

 

    排他的経済水域

排他的経済水域(EEZExclusive Economic Zone)は、国連海洋法条約によって、沿岸国が他国を排して経済的な権益を持つことが認められた海域である。最大で基線から200海里(約370km)まで認められている。ただし、隣国との間で排他的経済水域が重複する場合には、原則として両国の基線からの中間線をもって境界とすることになっている。特別な理由がある場合には、両国が協議することになっている。中国は、特別な理由として、東シナ海において中間線をはるかに日本(沖縄県)よりの沖縄トラフまでを自国の管轄海域であると主張している。

具体的に沿岸国が認められている経済的な権益としては、①海底資源の調査開発、②海洋(海水を含む)、海上の調査研究、利用、③漁業管轄権などである。排他的経済水域内における、我が国が進めている海底資源の開発、洋上風力発電、海洋利用の風力発電などの海洋エネルギーの研究推進、日本人の食生活に需要な漁業は、国連海洋法条約において保証されているのである。

排他的水域においては、船舶の自由通行、海底電線・海底パイプラインの敷設の自由、航空機の上空飛行は、公海と同等に認められている。

 

    大陸棚

大陸棚は、沿岸国から領海を越えて連続して延びる海底で、そこに眠る天然資源の開発のために主権的権利を持つ区域のことである。その限界は、沿岸の基線から200海里もしくは、陸地の自然延長としての堆積岩からなる地形が連続して延びている場合には、基線から350海里、または、水深2500mの海底点から100海里を超えない範囲で大陸斜面脚部から60海里、または大陸斜面脚部から1%以上の厚さの堆積岩が存在する最も沖合の地点までが認められることになっている。この大陸棚の延伸を主張するには、国連大陸棚限界委員会により勧告を受ける必要がある。日本は、2012年に勧告を受け排他的経済水域を越え、さらに約31万㎢の大陸棚をもつことが認められた。

 

    公海

いずれの国の主権も及ばない海域であり、いかなる国も公海において主権を主張することはできない。反面、各国は公海を自由に利用することができ「公海自由の原則」と呼ばれている。公海自由の対象となる海域は、排他的経済水域、領海もしくは内水またはいずれの群島国の群島水域にも含まれない海洋のすべての部分である。また、国連海洋法条約では、その対象となる範囲として、a.航行,b.上空飛行,c.海底電線・海底パイプラインの敷設,d.人工島その他施設の建設,e.漁業、f.科学的調査が例示されている。

公海を航行する船舶は、船籍国の管轄権に服することが原則であり、旗国主義と呼ばれている。

 

    深海底

沿岸国の管轄下にある大陸棚の外側の海底区域とその地下を指す。公海の海底であるが、その利用開発においては国際的な制限をかけている。国連海洋法条約では「深海底及びその資源は、人類の共同の財産である」としている。深海底の海底は、「国際海底機構」の管理、認可のもとに行われる。

3.海洋資源開発と中国の海洋侵出

2012年、日本と近隣国の間で領土、領海の問題が勃発し、さらに尖閣諸島周辺海域のような海洋管理の問題が発生した。

中国は、2010年以降、東シナ海の侵出を急速に進めている。特に尖閣諸島の領有権主張は、中国国家海洋局所属の海洋監視船「海監」や農業部漁業局所属の漁業監視船「漁政」の日本領海への侵入など実力行使へと移行した。中国の海洋侵出は、東シナ海のみならず、南シナ海においてはさらに激しくフィリピンおよびベトナムとは戦闘行為に発展したこともある。

中国の海洋侵出の動向は、国連海洋法条約の制定に向けた海洋法会議に影響を受けていると推察される。国連海洋法制定の流れの中で、中国は、自国の管轄海域の拡大を目指した。中国は自国の持つ大陸棚は、300万㎢を超える広さであると主張しているが、実際に管轄権を持つ海域は海洋政策研究財団による推定によると約96万㎢である。

中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、1971(昭和46)年である。1968(昭和43)年に国連アジア極東経済委員会(ECAFE)が東シナ海の海底資源を調査し、翌年に発表した報告所には「台湾と日本との間に横たわる浅海底は、将来ひとつの世界的な産油地域となるであろうと期待される」と記載されていた。すると、まず、19716月台湾が「中華民国」の領有権を主張し、米国に対して中華民国への返還を求めた。

中国は着々と海洋権益の拡大を図っている。尖閣諸島の領有権の主張を始めたのと同時期、ベトナムとの間で西沙諸島(パラセル諸島)への侵攻を開始し、1974年武力により同諸島の管轄権を獲得した。

中国は、1982年鄧小平の指導も下、九州を起点として沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島を結ぶ第一列島線を設定した。第一列島線は、中国の軍事的防衛ラインで、この内側を海洋領土と呼び自国の管轄海域に組み入れる計画だ。その目標年次は、2010年で、この年、南シナ海を「核心的利益」と呼び、中国の主権を守る上で、妥協を許さず外国の関与を阻止する方針を示した。また、東シナ海には、約270隻の大漁船団を派遣し、実効支配へ向けて動き出した。

中国はフィリピンとの間でも領土紛争を抱えている。1992年にフィリピンから米軍が撤退すると、1995年、中国はフィリピンが領有権を主張している南シナ海のミスチーフ礁に侵攻し、1998年には構築物を建設し、軍事的な拠点を作った。当初は、漁民の緊急避難という名目での上陸であったが、軍が漁民の保護のためと称して侵攻した。また、2012年には、フィリピン近海のスカボロ礁付近において、中国の監視船とフィリピン軍の警備艇がにらみ合いの状態が続いた。

中国は、1992年の領海法を定め、国内法では南沙諸島、西沙諸島、台湾、尖閣諸島を自国の領土に組み入れている。また、2010年には海島保護法を作り、沿岸の管理体制を構築するとともに無人島は国家管理地とした。中国は、着々と海洋管理体制の構築を進めながら、管轄海域の拡大に乗り出している。その目的は、海底資源の確保、水産資源の獲得、そして、貿易大国となった中国の「海の道=シーレーン」の確保が目的であると考えられる。

4.今後の動向

日本の海を取り巻く情勢は一段と複雑な様相を呈している。2012年南鳥島付近の海底にレアーアースが存在することが報告された。また、同年、南海トラフ海域におけるメタンハイドレートの商業化に向けた掘削(試掘の準備)が開始されている。さらに、沖縄トラフ海域の海底熱水鉱床の開発も商業化に向けての検討が始まった。日本の管轄海域内での海洋開発がまさに動き出したのである。この開発行為を側面的に支援するのが、海上保安庁の任務に加わった。開発海域の警備行動である。尖閣諸島の警備に象徴されるように、海上保安庁に求められている任務は、重大でありかつ、量、質ともに高い能力を求められている。しかし、海上保安庁の警備活動にも限界がある。今後、海上保安官の人数、巡視船の数を増やすとともに、海上自衛隊との役割分担も進めなければならないだろう。

また、北極海航路の開発が進むと北の海域の海上保安業務もさらに重要な任務となる。海洋安全保障体制を再構築する時期に来ていると考える。

 

山田先生著書

『天気で読む日本地図 各地に伝わる風・雲・雨の言い伝え』 PHP研究所〈PHP新書〉、20033月。

『海のテロリズム 工作船・海賊・密航船レポート』 PHP研究所〈PHP新書〉、200310月。

『日本の国境』 新潮社〈新潮新書〉、20053月。

『海賊の掟』 新潮社〈新潮新書〉、20068月。

『海の政治経済学』 成山堂書店、20098月。

『日本は世界4位の海洋大国』 講談社〈講談社+α新書〉、201010月。

『海洋資源大国 日本は「海」から再生できる』 海竜社、20112月。

『日本国境戦争』 ソフトバンク クリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、20117月。

『驚いた! 知らなかった 日本国境の新事実』 実業之日本社〈じっぴコンパクト新書〉、20124月。

 

 

 

講演2

米中関係と日本の外交

 

秋田 浩之(あきた ひろゆき)氏 

日本経済新聞社 論説委員兼政治部編集委員

 

プロフィール:

1965年生まれ。自由学園最高学部卒

1987年、日本経済新聞社に入社、流通経済部に配属

1992年、米ボストン大学大学院修了(国際関係論)

東京編集局国際部を経て、北京支局(19941998)、政治部(19982002)

ワシントン支局(20022006)

20069--20077月、ハーバード大学日米関係プログラム研究員

 

(1)米中、そして日本のDNA

(2)オバマ政権、これからの対中戦略

(3)中国は米国、日本にどう対応していくか

(4)米中のせめぎ合い、日本への影響は

(詳細は非公開とさせて頂きます。)

 

秋田先生著書

暗流―米中日外交三国志   秋田 浩之  日本経済新聞社(2008/1)

日中の壁   田原 総一朗、藤野 彰、倉重 奈苗、 秋田 浩之   築地書館(2012/7)

日米中外交戦の裏側   秋田浩之   日本経済新聞社

外交 Vol.13 Viewpoints   会田弘継、秋田浩之、城山英巳   時事出版社

外交 Vol.14 Viewpoints   国末憲人、秋田浩之、譚ろ美   時事出版社

 

 

 

講演3

韓国・北朝鮮との外交について

 

宮本 悟(みやもとさとる)氏 

聖学院大学基礎総合教育部 准教授

 

プロフィール:

1970年大阪府生

19883- 関西大倉高等学校卒業

19923- 同志社大学法学部卒業

19992- ソウル大学大学院政治学科修士課程修了[政治学修士]

20053- 神戸大学大学院法学研究科博士後期課程修了[博士(政治学)]

論文「朝鮮民主主義人民共和国における政軍関係 : 軍部の政治介入を抑える理論の考察 」

20064- 日本国際問題研究所研究員

20094- 聖学院大学総合研究所准教授

20134- 聖学院大学基礎総合教育部准教授

 

専攻は、比較政治学、国際政治学、政軍関係論,安全保障論,朝鮮半島研究。

所属学会は日本政治学会 , 日本国際政治学会 , 日本比較政治学会 , 国際安全保障学会 , 現代韓国朝鮮学会

 

日本の近隣にある朝鮮半島には二つの政府が存在する。軍事境界線の南側を統治する韓国と北側を統治する北朝鮮である。韓国と北朝鮮はお互いに相手を国家として認めておらず、一つの国家の中の二つの政府という形を取っている。従って、日本もこの二つの政府に対する外交は大きく異なっている。韓国に対しては国交を締結し、国家として認めているのに対して、北朝鮮に対しては国交を締結しておらず、国家として認めていない。

ただし、国交があるとはいえ、韓国が日本に対して友好的とは言い難い。国交がない北朝鮮は日本に対して敵対的ですらある。ただし、国交がないから敵対的というわけではない。この点は中国や台湾を見れば理解できよう。日本は中国と国交を締結し、中国を国家として認め、台湾を国家として認めていないが、台湾は中国よりも日本に対して友好的な側面が強い。少なくとも、北東アジアでは、国交があるかないかで友好的か否かが決まるのではなく、その政府の戦略によって、友好的かどうかが決まる。

 

北東アジアの政治情勢

●北東アジアには、5つの政府が存在する。しかし、国家は3つしかない。(ここではモンゴルは含めない)

●日本国

●朝鮮民主主義人民共和国[北朝鮮]

●大韓民国[南朝鮮]

●中華人民共和国[大陸]

●中華民国[台湾

 

北東アジアでの正統政府間の対立

●北東アジアで、日本を除く他の政府は、一つの国家の中で正統政府を主張し、対立している。

●中国では、中華人民共和国政府と中華民国政府が正統性を競っている。

●朝鮮半島では、朝鮮民主主義人民共和国政府と大韓民国政府が正統性を競っている。

 

南北朝鮮と中台(大陸と台湾)の違い

●南北朝鮮は第三国が両者と外交関係を締結する相互承認を認めているが、中台は相互承認を認めていない。

●南北朝鮮の経済交流はそれほど活発ではないが、中台の経済交流は活発である。

●南北朝鮮では、旧社会主義陣営である北の国力が劣勢であるが、中台では旧社会主義陣営である大陸が優勢である。

 

日本の立場

●北東アジアで唯一国家内の正統性対立がない日本は、中華人民共和国と大韓民国を正統政府として認めている。ただし、現在では友好関係とはいえない

●南北朝鮮は相互承認を認めているため、日本は北朝鮮と国交を締結できる立場にある。しかし、核問題や拉致問題、ミサイル問題、経済協力問題(過去問題)があるため、国交を締結する土台ができてない。そればかりか、北朝鮮の核兵器やミサイルは、日本の安全保障にとって大きな脅威であり、日朝は軍事対立状態にあるといえる。

●中台は相互承認を認めていないため、中華民国[台湾]と国交を持てない。ただし1972年までは中華民国を正統政府と認めていた。その以降も、台湾は中国に対抗するためにも、日本に対して友好的な関係を維持しようとしている。

 

南北朝鮮の境界

●朝鮮戦争(1950-53)の前後では、南北朝鮮の境界が異なる。

1950年に朝鮮戦争が勃発する以前は、北緯38度線を境界としていた。

1953年に朝鮮戦争の停戦が実現すると、軍事境界線が境界となった。

 

朴槿恵政権の外交戦略

●米韓軍事同盟と中韓戦略的協力パートナーシップの発展とバランス( 2013221日発表)

   米韓軍事同盟によって安全保障を得る

   中韓戦略的協力パートナーシップによって経済的な利益を得る。

   米中韓の三角戦略対話を発展させる。

   日本に対しては、領土問題を歴史問題の次元の原則に立って断固として対応し、

   互恵的協力関係構築のための努力も並行して行う(経済的利益は維持するという意味)

 

米中の間の韓国

●韓国における世論

   韓国は、米中双方とも良い関係を構築できると考えている

      中国に対する警戒心は小さい

      過去にあった反米プロパガンダをトーンダウン

   朴槿恵の外遊先

      最初の外遊先: 米国(55-10)

      二番目の外遊先: 中国(627-30)

 

対北朝鮮政策と北朝鮮の反応

●朝鮮半島の信頼熟成プロセス (2012115日発表)

   非核化の前提条件はつけない(李明博政権との違い)

   政治的条件なしに人道的支援を行う

   ソウルと平壌に南北交流協力事務所を設置する

   北朝鮮人権法を制定する

●北朝鮮の祖国平和統一委員会の批判(118)

   李明博政権の政策と大して違いはない

   北朝鮮人権法は、戦争を朝鮮半島にもたらす

 

朝鮮半島の信頼熟成プロセス の変化と北朝鮮の反応

●朴槿恵の訪米中における朝鮮半島信頼熟成プロセスの意味の変化

   56日、朴槿恵は朝鮮半島信頼熟成プロセスは北朝鮮の非核化のために推進していると発言

    (以前には非核化を前提としていなかった).

   57日、朴槿恵と会談した後にオバマ米大統領は、北朝鮮が非核化に向けた意味あるステップ

   を踏み出せば、北朝鮮に関与する準備ができていると発言した(北朝鮮が非核化に進むまで関与

   すべきではないという意味)

●北朝鮮の反応

祖国平和統一委員会は510日に、朝鮮半島信頼熟成プロセスが李明博の政策と何も変わらないことを自ら暴露したと批判した

 

南北交渉と決裂

●開城工業団地閉鎖と再開

   43日、北朝鮮が開城工業団地に南側人員が入ることを禁止。48日、北朝鮮が労働者の引き

   上げを宣言。

   66日、北朝鮮が開城工業団地について会談提案

   814日、7回目の協議で開城工業団地の再開で合意

   916日、開城工業団地再開

      朴槿恵政権発足時の状態に戻っただけ

●南北離散家族再会事業

   815日、朴槿恵が離散家族再会行事を提案

   822日、925-30日に再会行事を行うことに合意

   921日、北朝鮮が離散家族再会行事と金剛山観光再開をめぐる実務者会談(102日予定)

   延期を発表

      結局は何も実行できず 

 

朴槿恵の理想とする外交関係

現実としての外交関係

 

朴槿恵の理想と現実

●朴槿恵のジレンマ

米国は、韓国が北朝鮮の非核化を推進できなければ、韓国に魅力を感じない。

中国は、韓国が米国や日本に対抗するようにならなければ、韓国に魅力を感じない。

北朝鮮は、韓国が米国から離れていかなければ、韓国に魅力を感じない。

 

金正恩政権の外交戦略

●経済建設と核武力建設の併進路線(2013331日採択)

   世界の非核化まで、核兵器を放棄せず、開発・発展させていく。

   核兵器を米国との交渉における取引材料にしない。

●宇宙開発法の採択(201341日採択)

   宇宙開発を進め、これからも人工衛星を打ち上げる(ミサイルの開発継続を意味する)

●世界各国との交流を進めていく

   国連安保理決議で禁止されている武器貿易を含む対外交流を進めて、孤立化を防ぐ

 

国連安保理決議による禁止条項(2094) 201337

① すべての武器と関連物資の提供、製造、維持または使用に関する金融取引、技術訓練、助言、サービスや援助、斡旋や仲介業務を禁止

② 例外: ただし、北朝鮮に対する供給や販売、移転に限って、小型武器とその関連物資は認められる。その場合には少なくとも5日前までに制裁委員会に通知する義務がある。

③ 武器貿易が関係している場合、北朝鮮の銀行が外国に支店を作ることを阻む。反対に国連加盟国の銀行が北朝鮮に支店を作る場合も同じ。

④ 船舶が臨検を拒否したら、当該船舶が自国の港に入ることを拒む

 

北朝鮮の対外軍事支援の略史

●北朝鮮の対外軍事協力の全体像(北朝鮮からの公表情報に基づく)

   1945年から1994年まで53カ国に対して軍事支援を行った。

   1945年から1994年の間に48ヶ国に270個中隊と6,700人の教導団や顧問団を派兵した。

   15,000人の留学生を北朝鮮で軍事教育した。

●ただし、北朝鮮では軍事支援と武器貿易の区別をつけていない。1970年以降は、軍事支援でも有償であることが多い。有償の軍事支援は、武器貿易の事である。

 

社会主義陣営に対する軍事支援や武器売却

●中国国共内戦での軍事支援(1945-50)

武器提供と部隊派遣

●ベトナム戦争での北ベトナムへの軍事支援(196573?)

工兵部隊と空軍部隊の派遣

●ベトナム戦争でのカンボジアとラオスへの軍事支援196573?)

武器提供。カンボジアに対しては1990年代にも軍事支援を行った。ラオスに対しては現在、武器売却を行っている疑惑がある。

 

中東に対する軍事支援や武器売却

●エジプトとシリアへの空軍派遣(1973)

この空軍派兵に対するお礼としてエジプトが北朝鮮に送ったのがスカッド・ミサイルであり、北朝鮮がそれをさらに開発させて現在の長距離弾道ミサイルができた。

●エジプトとシリアへの軍需産業支援(1974年~現在?)

北朝鮮とエジプト、シリアは、化学兵器禁止条約に加盟していない数少ない国家であるので、化学兵器工場建設支援が含まれている可能性がある

●イラン・イラク戦争での武器売却(1983年~?)

イランへの武器売却。ただし、現在は可能性が低い

 

アフリカ諸国に対する軍事支援や武器売却

26ヶ国と99回の軍事代表団の往来(1968-2012)

アルジェリア : 軍事支援(1970)

ジンバブエ :5旅団育成(1981)

エチオピア : 軍需産業支援

タンザニア:北朝鮮の軍事大学で軍事訓練

セイシェル : 軍事顧問団派遣

マダガスカル : 武器貿易と軍事顧問団派遣

レソト : 武器売却と軍事顧問団派遣、北朝鮮の軍事大学で軍事訓練

モザンビーク : 独立解放闘争支援と独立後の軍事支援

ザンビア : 軍事支援

ウガンダ : 軍事支援と北朝鮮の軍事大学で軍事訓練

アンゴラ、ナミビア、リビア(軍事同盟国) : 軍事支援

 

ラテンアメリカに対する軍事支援や武器売却

●キューバ : 1983729日にフィデル・カストロが要請したことで、10万丁の自動銃と数千万発の銃弾を提供(軍事同盟締結)

●ガイアナ : 198312月から軍事支援開始 。

●ニカラグア : 反政府団体であるサンディニスタ民族解放戦線を支援。1979年にサンディニスタ政権成立後も軍事支援を継続。

 

国連加盟国の対北朝鮮制裁報告状況(2013104日発表時点)

国連加盟国193ヶ国のうち95ヶ国と国連総会オブザーバーであるEUだけが報告した。

   西ヨーロッパ・その他グループ28ヶ国 : 28ヶ国

   東ヨーロッパグループ23ヶ国 : 21ヶ国

   アジア太平洋グループ53ヶ国 : 28ヶ国

   ラテンアメリカ・カリブ海グループ33ヶ国 : 11ヶ国

   アフリカグループ54ヶ国 : 6ヶ国

   その他2ヶ国 : 1ヶ国

   発覚した違反ケース : エチオピア、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、キューバ

日本はどうしたら良いのか?

●韓国に対して

日韓の対立は、あくまで論争である。ただし、朴槿恵政権は、日本ではなく、韓国が北東アジアにおける外交の中心になることを理想としている。そのため、論争によって国際社会で日本を貶めることに力を注ぐことになる。従って、韓国との論争に打ち勝つためには、韓国に対してではなく、国際的に説得力のある論理を出すことが必要である。

   参考: 浅羽祐樹『したたかな韓国』NHK出版、2013

●北朝鮮に対して

日朝の対立は、軍事的な対立である。しかも、北朝鮮が核兵器を放棄する可能性はかなり低い。六者会合で核問題が解決する可能性もほとんどない。従って、経済制裁を続けると同時に、日本の防衛を発展させていくしかないのが現状である。軍事支援や武器貿易の規模は時間の経過とともに小さくなるであろうが、北朝鮮は国連安保理制裁の目を掻い潜って武器貿易を続けようとしている。その違反を一つ一つ見つけていくのが、経済制裁の効果を高める早道である。

 

宮本先生著書

北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか? 政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援                                                                                 潮書房光人社,2013

朝鮮労働党の権力後継  中川雅彦 (担当:共著, 範囲:国際的制裁と対外政策)  

                                                                                    アジア経済研究所 201110

朝鮮社会主義経済の現在  中川雅彦 (担当:共著, 範囲:国際社会の援助)  

                                                                                    アジア経済研究所 20093