第3回 平成24年10月8日 専売ホール 13:00~17:00

「放射線被ばくと健康危機管理」 ~放射線による健康リスクを考える~

昨年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、大量の放射性物質が放出されました。これは世界に衝撃を与え、放射線による健康被害へも大きな不安を引き起こしました。現地周辺では除染活動が続けられていますが、多くの国民は土壌や食品などを通じた放射線被ばくへの不安を抱えたままの生活が続いています。

 

第1部 講演: 13:00~15:50

講演1   :  放射線被ばくの基礎

 

        長崎大学 大学院

                        水産・環境科学総合研究科 

                        准教授 高辻俊宏 氏

エネルギーの高いガンマ線は、光子1個によって発生した高速電子が何万個もの電子を物質からたたき出す。したがって、放射線に被ばくすると、どんなに低線量でも、細胞レベルでは影響を受ける。

放射線に被ばくした細胞は、自らに備わった修復機能により、傷ついたDNAを修復し、自らを守ろうとするが、誤った修復から免れることはできない。染色体異常は、正常な修復機能によって発生するのであり、その結果、細胞は死に至ったり、突然変異を誘発したりし、発癌の原因にもなると言われている。染色体異常の発生には、電子1個で十分であり、実際、低線量では線量に比例した頻度で発生することが観察されている。

国際放射線防護委員会(ICRP)は、低線量における癌死の増加は被ばく線量に比例し、1%増加する線量は約200 mSvであると見積もっている。これは、年間20 mSv (2.3Sv/h)の線量率のところで10年暮らす線量であるから、汚染地域では、あり得る線量である。100人にひとりの死亡は、誰の目で見ても区別できる症状であれば、周囲に与える恐怖は大きなものであり、見過ごすことができない。一方、人々の約50%が癌を発症し、約30%が癌で死亡するという状況では、この程度の癌死増加を疫学調査に基づき統計的に判定することは難しい。このことから、低線量における健康影響を否定する説も出ている。ホルミシス効果と言って、低線量では体に良い影響があるとする説さえもあるが、提唱者の意図に反して、低線量での影響を認めているとも解釈できる。

放射能を体内に取り込んだ場合(内部被ばく)は、特定の組織に集まって高い線量を受ける可能性がある。食品中の放射能濃度は不均一であり、測定には不確実性が避けがたい。そもそも発癌は確率的影響である。貧乏くじを引く者が死ぬ目に遭う。放射能をこまめに測定して、できるだけ影響を受ける確率を減らすことが大切である一方、これらの対策は費用、労力、ストレス、食料不足、生産者のリスクなどを増大させる傾向があり、極端なことはかえってリスクを高め逆効果になるといえる。リスクの最適化が必要となるが、実際、どのようにしたらよいかについてはわからない。カリウム40は天然放射性同位元素で、体内にもとから存在し、普段からこれによる被ばくを受けている。普通でない被ばくを避けて、大きな危険を回避するには、体内各臓器でのカリウム40による被ばく線量との比較がひとつの鍵と思われる。

講演2   : 放射線・放射能の測定、評価

 

        名古屋大学 

                        大学院工学研究科量子工学専攻 

                        教授 井口哲夫 氏

現在、文部科学省や環境省等が中心になり、国を挙げて実測に基づく放射能汚染の詳細な状況把握に努めている一方、放射線の測定を専門としない方々による計測値のホームページやブログ等での紹介、また線量率の高い場所を特定し、その情報を交換して、自分たちでできる範囲の対策を積極的に講じる動きも活発化している。このような身の回りの放射線(事故以前から存在する自然放射線も含む)の状況を正しく知ることは、さまざまな放射線によるリスクに対する理解を深め、それらを低減する工夫にもつながるため、この流れはおおいに推進・サポートすべきと考える。しかし、放射線の測定、特に人体への被ばく線量や物品の放射能濃度の定量評価は、様々な物理量(例:時間、長さ、重さ等)の測定の中でも最も難しい技術の一つである。最近、各種の放射線測定器が出回っているが、市民による身の周りの放射線量の測定活動をより有効にしていただくには、測定器固有の特性や表示される測定値の意味、また実際に測る環境や対象物における放射線の特徴などをよく理解していただくことが強く望まれる。本講演では、関心が高い「空間線量率」、「人体・物品等の表面汚染」、「食品・飲料の放射能濃度」の測定を念頭に、①測定器で何を測っているか、②測定データをどのように線量率や放射能濃度に換算するか、③測定結果がどのくらい変動する可能性があるか等の観点から、放射線計測上の留意点を概説する。

市販放射線サーベイメータを用いた測定の留意点に関する総括として、以下の4点を掲げたい。

(1) 放射線の測定は、種々の物理量の測定の中でも高度な技術が必要であり、とくに、低いレベルの被ばく線量や放射能濃度の高精度な実測評価は、専門家でも至難の業である。

(2) 正しい測定を行うためには、検出器の定期的な校正・点検が必要。あるいは国家標準とのトレーサビリティが保証された測定器を用いることが望ましい。

(3) 放射線サーベイメータの指示値(線量値)を安易に信用することは避けるべきであり、国の公開データや複数の測定結果と相互に比較して妥当性を確認していただきたい。

(4) 同一条件の測定であれば、安価なサーベイメータでも、その相対的な時系列データは有効と思われ、継続的に実施することを勧めたい。ただし、測定条件(天候、場所、測定の配置など)の記録も忘れずに行っておくことも重要である。

講演3   : 原子力問題とリスク・コミュニケーション

 

        日本大学 

                        法学部 

                        教授 福田 充 氏

 現在の放射性物質による健康リスクに対する不安の原因は、2011311日に発生した東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故による放射性物質の拡散である。この福島第一原発事故により直接被害を受けた福島の被災者や周辺の住民は、健康に関するリスクに対して大きな不安を抱えながら生活している。しかし、これは決して他人事ではなく、原発事故など原子力に関する危機が発生する可能性がある限り、原子力のリスクは全国民に関連する重大なリスクである。

 この原子力のリスクに対するコミュニケーションには様々な問題が存在する。原子力事業を展開する電力会社、監督する経済産業省の旧・原子力安全・保安院、新しく発足する環境省原子力規制庁、マスコミ、メディア、そしてこうした電力会社の広報やメディア報道を受け取る市民といったアクターの中で、日々、原子力に関するリスク・コミュニケーションが行われている。これらの原子力のリスク・コミュニケーションの問題点を整理し、そのメカニズムを考察する。

まずは、1)「原子力に対するリスク不安」の問題である。住民に広まっている原子力に対する不安が、原子力に関する理解とコミュニケーションを歪めている。リスク・コミュニケーションにおいて、この不安の問題は非常に重要である。

続いて、2)「原子力に関するリスク認知ギャップ」の問題である。原子力の専門家と一般住民の間に、原子力に関するリスク認知に大きなギャップがあることが明らかになっている。両者のリスク認知にギャップがある限り、リスク・コミュニケーションはディスコミュニケーションに陥る。このリスク認知ギャップの克服が不可欠である。

さらに、3)「原子力の安全・安心広報の問題」として、これまで電力会社や自治体、政府が行ってきた原子力の広報活動において、原子力事故は発生しないということを前提とした安全ばかりを強調する広報が展開されていたことを指摘せねばならない。こうした安全・安心広報によって拡大した原子力の「安全神話」が、原発事故への対応を後手に回らせたのである。

その結果、4)「原子力の信用、信頼の喪失」の問題が発生した。福島第一原発事故によって、原子力という技術、行政に対する信用、信頼は崩壊した。そのことが、放射性物質による健康リスクに対する不安に拍車をかけている。原子力問題に関する信用の確立とリスク・コミュニケーションの再構築が必要とされている。

2部 パネル・ディスカッション:16:0017:00

出席者 第1部講演者、

    コーディネーター : 公益財団法人 公共政策調査会第2研究室長 河本 志朗 氏

               (当研究会 副代表理事)

コーディネーターによる代表質問への回答・解説に加え、会場からも多くの積極的な質問指摘が行われました。非常に関心の高いテーマであり、誰もが不安を抱える中で、放射線による健康リスクを如何に捉えて判断するべきかが討論されました。